AIが存在しない判例を作り出す?法律実務での実例と対処法

AIは、法律調査や知的財産調査の場面でも便利なツールになりつつあります。
契約書の論点整理、判例の調査補助、商標・特許に関する一般的な説明など、短時間で情報を整理できる点は大きなメリットです。

しかし、法律実務でAIを活用する際には、見過ごせない注意点があります。
それは、AIが存在しない判例や存在しない知的財産権を、もっともらしく作り出すことがあるという点です。

ここでは、実務で実際にあった事例を交えながら、どのような問題が起きるのか、そしてどう対処すべきかを整理します。

目次

AIの回答には、なぜ注意が必要なのか

結論から言うと、AIの回答をそのまま法律判断の根拠にしてはいけません。
AIは正確な情報を出すこともありますが、事実と異なる情報をもっともらしい形式で提示することがあるためです。

問題は大きく3つのパターンに分かれます。以下、それぞれ見ていきましょう。

【パターン①】存在しない判例を作り出す

AIはときおり、実在しない判例をあたかも実在するかのように回答することがあります。
架空の判決日、架空の事件番号、架空の掲載書誌情報を組み合わせて、「この判例ではこのように判断されています」と説明してくるのです。

形式が整っているため一見もっともらしく見えますが、判例は法律判断の根拠です。
存在しない判例を前提にすれば、判断を誤ってしまいます。

【パターン②】射程の及ばない判例を持ち出す

実在する判例であっても、現在の事案に当てはまらない判例を持ち出すことがあります。

判例には「射程」があります。
事案の前提、契約内容、当事者の立場、法律関係が異なれば、結論を導く参考にはなりません。
AIはキーワードで類似する判例を検索することは得意ですが、その判例が当該事案に本当に適用できるかどうかまでは判断してくれません。

【パターン③】存在しない知的財産権を作り出す

知的財産分野でも同様の問題があります。
AIは、存在しない商標・意匠・特許について、架空の登録番号や架空の権利内容を示して説明することがあります。

これを鵜呑みにすると、誤った権利分析、誤った商品戦略、誤った侵害判断につながるおそれがあります。

実務で実際にあった事例

上の3つのパターンは、理論上の話ではありません。実務で実際に確認された事例を2つ紹介します。

事例1:存在しない意匠権を作り出したケース

ある会社で、知財ミックスに関する研修動画を制作していた際のことです。

研修で知財ミックスの成功事例として取り上げようとした会社は、実際には意匠権による保護を行っていませんでした。
ところがAIは、「意匠権でも保護している」「登録番号○○○○○○号」といった形で、具体的な登録番号まで付けて説明してきました。

J-PlatPatで確認したところ、そのような登録は存在しませんでした。

AIは「知財ミックスとして整合性のある説明」を組み立てようとするあまり、実際には存在しない権利を補ってしまったと考えられます。説明の形式を整えることが、事実の正確さより優先されてしまった例です。

事例2:射程外の判例と架空の判例の組み合わせ

別の事案では、登記に関する事案についてAIが複数の判例を提示しました。内容を精査すると、一部は実在する判例(ただし当該事案は射程外)、一部は架空の判例、という組み合わせでした。

この事例で特に問題なのは、実在する判例が「隠れ蓑」になるという点です。
実在する判例が混ざっていることで全体が信頼できるように見え、架空の判例が見抜かれにくくなります。
さらに、射程外の判例であっても「根拠」として提示されることで、結論が裏付けられたように見えてしまいます。

一つひとつの判例を個別に検証しなければ、こうした問題は気づかないまま通り過ぎてしまいます。

どう対処すべきか

① 必ず一次情報で確認する

AIの回答は、必ず裏付けの確認が必要です。

判例であれば、判例データベースや判例雑誌で確認する。
知的財産権であれば、J-PlatPat等で登録の有無を確認する。
特に、判決日・登録日、裁判所名、事件番号・登録番号、掲載誌・権利者の情報は必ず照合してください。

② AIは「調査の出発点」として使う

AIは有用なツールです。しかし、「AIの回答=結論」ではありません。

AIはあくまで、論点の整理、調査の入口、説明のたたき台として活用するものです。
最終的な判断は、必ず一次情報にもとづいて人間が行う必要があります。

まとめ

AIを法律実務で活用する際は、以下の点を常に意識してください。

存在しない判例を作り出すことがある。
架空の登録番号を示すことがある。
射程外の判例を持ち出すことがある。
そして、実在情報と架空情報を混在させることがある。
必ず一次情報で確認し、判例の射程は自分で検討する。

最も重要なのは、「AIに聞くこと」ではなく「AIの回答を検証すること」です。

「なんとなく正しそう」ではなく、一つひとつの情報に裏付けを取る習慣を持つことが、AI時代の法律実務には不可欠です。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の事案に対する法的助言を行うものではありません。具体的なケースについては、専門家にご相談ください。

【補足動画(5分解説)】
※本記事の内容は動画でも解説しています(下記)

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