試作品の製作、ロゴやパッケージデザイン、商品写真、展示会カタログ、Webサイト、技術資料——中小企業でも外注を使う場面は多くあります。
しかし、外注契約では「発注書を出せば終わり」と思っていると、後から問題が起きます。2026年1月からは従来の下請法が改正され、取適法として施行されます。対象範囲の拡大、一方的な代金決定の禁止、手形払等の禁止など、発注側には適正な取引条件の設定がこれまで以上に求められます。
本記事では、知財が関係しやすい外注契約を念頭に、発注内容・代金・支払条件の見直しポイントを整理します。
1 中小企業も「発注側」になる
取適法は、発注側が強い立場を利用して受注側に不利益を押し付けることを防ぐルールです。「大企業の問題」と思われがちですが、中小企業でも発注側になる場面は多くあります。デザイン会社、Web制作会社、試作品メーカー、カメラマン、フリーランスのライターやエンジニアへの外注は、そのまま取適法が念頭に置く取引形態に当てはまることがあります。
実務上は、条文を暗記するよりも、次の5つの姿勢を意識することが重要です。
- 発注内容を曖昧にしない
- 代金を一方的に決めない
- 追加作業を無償で当然視しない
- 支払条件を後から不利に変えない
- 成果物の利用範囲をきちんと確認する
2 「何を発注するか」を具体化する
外注契約で最初に問題になるのが、発注内容の曖昧さです。「展示会用の資料を作ってください」「ロゴを作ってください」——これだけでは受注側はどこまで対応すればよいか分かりません。発注前に確認すべき点は大きく3つです。
① 成果物の内容
カタログ制作であれば、ページ数・原稿作成の有無・印刷の有無・編集データも含むか。ロゴ制作であれば、提案案数・修正回数・納品形式・商標調査対応の有無。試作品であれば、仕様確定の根拠・検査基準・不具合時の対応範囲。これらを事前に確認しておく必要があります。
② 作業範囲と納品物を分ける
Webページ制作を例にすると、打合せ・構成案・デザイン・コーディング・公開作業など多くの「作業」があります。しかし「納品物」はHTMLデータ・画像データ・管理画面設定・マニュアルなどに分かれます。ここを混同すると「このデータも当然もらえると思った」「公開後の修正も含まれると思った」という認識違いが起きます。発注書では作業範囲・納品物・納品形式・納期・検収方法を分けて書くことが基本です。
③ 使う目的を明確にする
商品写真を撮影してもらう場合でも、自社Webサイトで使うのか、SNS広告・動画・海外向け資料・販売代理店にも使わせるのかによって、必要な権利処理が変わります。どの媒体で・いつまで・誰が・改変してよいか・第三者に使わせてよいかを、発注前に整理しておく必要があります。
3 代金と追加作業のルールを決める
見積書に「一式」と書かれることがあります。問題は「一式」に何が含まれるかが不明確なことです。修正は何回まで含まれるか、追加案の作成は別料金か、元データの納品は含まれるか、二次利用の料金は含まれるか——こうした点が曖昧なまま進むと、後から代金トラブルになります。
取適法の観点では、十分な協議をせずに一方的に代金を決めたり、追加作業を事実上無償で求めたりすることは避けるべきです。発注前に、基本料金の対象・修正対応の回数と追加費用・仕様変更時の見積り方針・緊急対応の追加費用を分けて合意しておくことが重要です。
特に追加作業は揉めやすい点です。「少し直すだけ」「前回の延長」という感覚でも、受注側には新たな作業として時間と費用がかかります。どこまでが基本作業でどこから追加か、追加の場合は事前に見積りを出してもらい承認の上で着手するか、納期も変更するかを決めておくことが大切です。
4 支払条件と検収基準を発注時に決める
支払条件は「納品後に考える」ものではありません。発注時に、支払金額・支払期日・支払方法・着手金や中間金の有無・検収後何日以内に支払うかを確認しておく必要があります。
特に制作物や試作品では、発注側の確認が遅れることで受注側への支払が遅れることがあります。「担当役員がまだ見ていない」「展示会後に判断したい」という理由で検収や支払が長引くと、受注側には大きな負担になります。検収期間と確認担当者を事前に決めておくことが、発注側の管理責任として必要です。
検収基準も重要です。「イメージに合っていること」「高品質であること」では判断基準として不十分です。指定したページ数か・指定ファイル形式で納品されているか・誤字脱字修正が反映されているか・図面どおりの寸法か——こうした客観的な基準を事前に合意しておかないと、発注側が支払を保留し受注側が「すでに納品した」と主張する事態になります。
5 知財絡みの外注では権利帰属と利用範囲を分けて確認する
外注先が作成した成果物には、著作権・デザイン・ノウハウなど知財に関係する要素が含まれます。発注側は「お金を払ったのだから当然こちらのもの」と考えがちですが、契約で明確にしていないと利用範囲が問題になります。
確認すべき点は、著作権は誰に帰属するか・発注者はどの範囲で利用できるか・改変して使えるか・グループ会社や代理店も使えるか・商標登録や意匠登録の出願に使えるか・外注先が実績紹介として公表できるかです。
ただし、すべての成果物について権利譲渡を求めるべきという意味ではありません。利用許諾で足りる場合もあります。一方、商品名・ロゴ・パッケージ・主力商品のデザインなど長期的に使うものは、権利帰属と独占利用を慎重に確認すべきです。大切なのは、自社がどのように使いたいかを先に整理し、それに合った契約条件にすることです。
まとめ
外注契約では、発注内容・代金・支払条件を発注前に整理することが基本です。
特に知財が絡む外注では、ロゴ・パッケージ・商品写真・Webページ・試作品・技術資料は納品後も長く使われます。成果物の内容と利用範囲、修正対応、権利帰属、元データの扱いを曖昧にしたまま進むと、後から解決が難しくなります。
取適法の施行により、一方的な代金決定・追加作業の押し付け・支払条件の曖昧さは、これまで以上に注意が必要です。外注は事業を広げるための重要な手段です。だからこそ、「何を頼むか・いくらで頼むか・いつ支払うか・どこまで修正してもらうか・成果物をどう使えるか」の基本を発注前に確認しておくことが、自社の事業と知財を守る最初の管理ポイントになります。
シリーズ記事との関係
本記事は、「中小企業のための知財戦略・最初の5ステップ」シリーズの合間に掲載する企業法務・契約実務の記事です。
第3回では、特許を取るか秘密にするかという公開戦略を取り上げました。第4回では、商品名・会社名・シリーズ名などのブランド設計と商標の基本を取り上げる予定です。その間に本記事では、外注契約における発注内容・代金・権利処理のポイントを取り上げました。知財を守るためには、権利の取得だけでなく、外注先との契約条件を整えることも重要です。
この記事の内容は、下記の動画でも扱っています。

