商品やサービスが増えてくると、名前の付け方が少しずつ複雑になります。会社名・商品名・シリーズ名・ロゴ・パッケージ表示——最初は感覚的に付けていても、事業が広がるにつれ、「会社名と商品名の関係が分かりにくい」「主力商品名を商標登録していなかった」「どの名前を前面に出すべきか整理できていない」といった問題が起きやすくなります。
中小企業の場合、商品の数は大企業ほど多くなくても、ひとつのブランド名が事業全体に与える影響は大きくなります。本記事では、名前の整理方法と商標の優先順位の考え方を取り上げます。
1 名前は「事業の地図」で考える
商品名を決めるとき、響きの良さや覚えやすさは大切です。しかし、事業として考える場合、それだけでは足りません。重要なのは3つの関係です。
会社名・屋号と商品名の関係——会社名を前面に出して信用を積み上げるのか、商品名を独立したブランドとして育てるのか。ここを決めないまま商品名を増やすと、ブランド全体が見えにくくなります。
商品名とシリーズ名の関係——単品の商品名だけで売るのか、複数の商品をまとめるシリーズ名を作るのか。同じ技術やデザインコンセプトを共有する商品群であれば、シリーズ名を設けた方が次の商品展開につなげやすくなります。
現在と将来の商品展開の関係——関連商品、上位モデル、海外向け商品を出す可能性があるなら、最初から名前の拡張性を考えておく必要があります。
商標は「名前を登録する制度」であると同時に、どの名前を事業上の資産として育てるかを決める作業でもあります。
2 よくある失敗は「全部同じ重さ」で名前を付けること
中小企業でよくあるのは、商品ごとにそれぞれ良い名前を考えるものの、全体の整理がないまま名前が増えていくケースです。ある商品は会社名を大きく表示し、別の商品では商品名だけを前面に出し、別の商品ではシリーズ名らしき名称が使われ、展示会資料ではさらに別の略称が使われている——この状態になると、顧客から見てどれが会社名でどれが商品名かが分かりにくくなります。
社内でも問題が起きます。新商品を出すたびに名前の付け方が担当者任せになる。カタログ・Webサイト・展示会資料・契約書で表記が揺れる。どの名前を商標調査・登録すべきか判断できない——つまり、ブランド設計が曖昧だと、商標管理も曖昧になります。
3 整理すべき4つの名前
中小企業が最初に整理すべき名前は4つです。
① 会社名・屋号
取引先・金融機関・採用・展示会・プレスリリースなど、信用の土台になります。会社名をそのままブランドとして前面に出す会社もあれば、会社名を裏方に置き商品ブランドを前面に出す会社もあります。どちらが正解ではなく、意図して選ぶことが大切です。
② 主力商品名・主力サービス名
最も商標登録を検討すべき対象です。展示会・ECサイト・SNS・プレスリリースで繰り返し使う名前は顧客に記憶されやすい反面、他社に似た名前を使われた場合のダメージも大きくなります。
③ シリーズ名
複数の商品を束ねる名称です。同じ技術・デザイン思想・顧客層に向けた商品群をひとつの名前でまとめることで、最初の商品で得た信用を次の商品に移転しやすくなります。ただし「高機能シリーズ」「業務用シリーズ」のような説明的な名称は、商標として識別力が弱くなりやすい点に注意が必要です。シリーズ名をブランドとして育てたいなら、識別力のある名称にすることを考える必要があります。
④ ロゴ・マーク
実際の市場では、文字の名称だけでなく、ロゴ・パッケージ・色使い・Webの見せ方も含めて認識されます。まずはどの表示を顧客に覚えてもらいたいかを整理することが出発点です。
4 名前の役割を分けると、何が変わるか
複数の名前をどう使い分けるかを考えるうえで参考になるのが、デザイン性の高い生活用品を扱うメーカーに多く見られる構造です。こうした会社では、会社名はそのまま全体の信用やプロデュース力を示す役割を担い、一方で商品群ごとに独立したブランド名を設けて、それぞれ異なる顧客層や世界観に対応しています。会社名・ブランド名・商品名がそれぞれ異なる役割を持つことで、商品が増えても名前の体系が崩れにくくなるという特徴があります。
中小企業でも同様の整理が可能です。会社名は取引先や採用など信用の土台として使い、シリーズ名は商品群の世界観を伝えるために使い、個別商品名は具体的な商品の特徴を伝えるために使う——このように役割を分けると、商標登録を検討すべき対象も見えやすくなります。
5 商標登録を検討する優先順位
中小企業では予算・時間に限りがあります。すべての名称を一度に出願するのは現実的でないため、優先順位が必要です。
優先順位1:主力商品・主力サービスの名前——その名前が使えなくなると、カタログ・Webサイト・パッケージ・展示会資料を作り直す必要が生じます。すでに顧客に覚えられている名前であれば、変更による損失はさらに大きくなります。
優先順位2:今後育てたいシリーズ名——1商品だけで終わる名称よりも、複数の商品にまたがって使うシリーズ名は長期的に価値を持つことがあります。将来の事業展開の器になるからです。
優先順位3:会社名・屋号・サービス全体の名称——Web検索・SNS・ECサイト・展示会で会社名がブランドとして機能している場合は、商標登録を検討する価値があります。
優先順位4:ロゴ・マーク——ロゴは将来変更する可能性もあります。まず文字の名称を守り、長く使うロゴが固まった段階でロゴ商標を検討する順番も一つの考え方です。
まとめ
商品名・会社名・シリーズ名は単なる名前ではありません。顧客に覚えてもらう入口であり、営業活動の道具であり、将来の商品展開を支える資産でもあります。
中小企業では最初から大企業のようなブランド体系を作る必要はありません。しかし、少なくとも次の3点は意識しておくことが重要です。
- 会社名・商品名・シリーズ名それぞれの役割を意図して決めること
- 今後育てたい名前を優先して商標登録を検討すること
- 名前を決める前に、同じ分野で似た商標が使われていないかを確認すること
特に展示会・クラウドファンディング・プレスリリース・EC販売の前には早めに確認すべきです。公開後に名前を変えるのは想像以上に大変です。名前は一度市場に出すと簡単には変えられません。商品を出す前、展示会に出る前に、ブランド名と商標の整理をしておくことが、事業を長く続けるための基本です。
次回予告
次回は、シリーズ第5回として「小さく始める知財戦略――中小企業のためのミニ・プレパック」を取り上げます。特許・営業秘密・商標・契約・社内ルールを、限られた予算と人員で実行しやすい形に整理します。
ブログ記事の内容は、下記の動画でも扱っています。

